動物の持つ力を活用するアニマルセラピー。介護福祉の現場においても動物と触れ合う活動などが積極的に行われています。
介護施設でのアニマルセラピーは、どのような効果をもたらすのでしょうか。
この記事を読めば、介護施設について、アニマルセラピーの目的や効果、介護施設で行う際の注意点について理解できるので、ぜひ最後までご覧ください。(アイキャッチ画像:https://www.pakutaso.com/photo/78958.html)
アニマルセラピーとは?
介護福祉現場においても動物と触れ合う活動が積極的に行われています。
日本では、動物とのふれあいによって心身を導く活動のすべてが「アニマルセラピー」と表現されています。
「アニマルセラピー」と呼ばれる活動は、目的などによって「動物介在活動(AAA)」「動物介在療法(AAT)」「動物介在教育(AAE)」の3つに分けられます。
動物介在活動(AAA)
Animal Assisted Activityと言い、QOL(生活の質)の向上を目的として、動物と触れ合う活動です。
介護施設に動物を伴って訪問する活動などは、レクリエーションの一環として高齢者に楽しい時間を過ごしていただくことが主となる目的です。
動物介在療法(AAT)
Animal Assisted Therapyと言い、医師や看護師、作業療法士などの医療従事者が、動物を介在させて行う療法のひとつです。
事前に治療目標が設定され、実施後には効果判定が行われます。認知症ケアや緩和ケア、リハビリテーションなど多分野での活用が期待されています。
動物介在教育(AAE)
Animal Assisted Educationと言い、子どもを主な対象として、人格形成や学習意欲の向上などを目的に動物を介在させる活動です。
教育現場での動物飼育やカリキュラムへの導入、動物を同伴しての訪問などがあります。
【介護施設でのアニマルセラピー】情動面への効果
- 情緒的に安定する
- 心身の健康を維持できる
- 人間関係を良好にする
情緒的に安定する
動物とのふれあいで安らぎとぬくもりを感じると、孤独感が薄れたり、ストレスが解消されたりすることがあります。また、愛情表現豊かな動物と接することで「必要とされている」という充足感が得られます。
心身の健康を維持できる
動物との散歩によって運動不足の解消や筋力の増強、メタボの予防効果が期待できます。
動物と遊んだり世話をしたりすることでADL(日常生活動作)の維持・向上、動物との楽しい関わりから意欲や活動性が高まれば、認知症のリスクの軽減にもつながると言われています。
人間関係を良好にする
かわいい動物に触れると自然に笑顔が生まれ、無口だった方の発語が増えたり、動物の話題で会話が弾んだりすることで人間関係が良好になります。
【介護施設でのアニマルセラピー】疾患への効果
アニマルセラピーは、精神疾患の改善や認知面の改善などに効果があると言われています。
精神疾患の改善
アニマルセラピーは、以下のような効果があることから、うつ病や統合失調症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に効果があるとされています。
- 笑顔が増える
- 活動量が増える
- 治療への積極性が高まる
認知症の改善
認知症患者に対して、アニマルセラピーを行うことによって、以下の効果がみられたとの調査結果もあります。
- 会話の増加
- 日常生活への自立度
- 表情が柔らかくなる
【介護施設でのアニマルセラピー】注意点
アニマルセラピーを行うにあたっての注意点は以下の通りです。実際に行う場合は事前に施設の方ともよく話し合い、リスク管理をしっかりしておくことが必要です。
無理にすすめない
高齢者の中には動物が苦手な方や動物アレルギーののある方もいます。相手の気持ちを何よりも尊重し、動物とのふれあいを望まない場合は無理にすすめないようにしましょう。
衛生面に配慮する
抵抗力が低下している高齢者が動物と触れ合うときは、人獣共通感染症(ズーノシス)の予防対策が必要です。
動物の検診や予防接種、寄生虫の駆除等を行い、定期的なシャンプー、ブラッシング、爪切りなどで不衛生を防ぎましょう。動物に触れた後は必ず手洗いをするようにしましょう。
万が一の事故を防ぐ
アニマルセラピーに参加する動物は適性があり、基本的なしつけや行動のコントロールができていることが前提です。
ハンドラー(飼い主)は動物の習性や特性を理解し、動物にいつもと違う表情や行動がみられたら活動を中止するなど適切な対処をしましょう。
【介護施設でのアニマルセラピー】適した動物
アニマルセラピーで最も活躍している動物は、犬です。その他にも猫、小動物である鳥・ウサギ・モルモット、大型の動物では馬などもよく用いられています。
これらの動物は、人間と共に生活してきたという特徴があります。
「人に懐きやすく、穏やかで難なく接することができ、他の動物や見知らぬ場所にも順応できるか」が適正基準となり、基本的なしつけはもちろん、行動を制御できるかも重視されます。
【介護施設でのアニマルセラピー】適さない動物
アニマルセラピーに適さない動物として、小動物や爬虫類などが挙げられます。カメ・イグアナ・ヘビなどの爬虫類は苦手な人も多く、フェレットなどの活発で良く動き回る動物も適さないとされています。
これらの動物は高度なしつけが難しく、行動が予想できない動物や臆病で人間に慣れていない動物は恐怖のあまり嚙みつくといった危険も伴うため、アニマルセラピーに活用するには難しいとされています。
【介護施設でのアニマルセラピー】効果検証データ
2006年、当時の日本動物病院福祉協会会長を務めていた水谷渉氏によるアニマルセラピーの効果検証のデータがあります。
期間 | 2006年10月~2007年1月 |
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対象施設 | 7か所 |
動物とのふれあい回数 | 16回 |
人数 | のべ109人の高齢者(女性80人・男性29人) |
方法 | ビデオ撮影による観察 |
上記の方法で集められたデータの結果によると、動物が同じ空間にいる時といない時では、入居者の笑顔や会話数に変化が認められることがわかりました。
動物の有無による変化が大きかった動作は、動物がいる群の笑顔・短い会話でした。笑顔の回数が4倍以上、短い会話は2倍以上となり、これはアニマルセラピーの効果を表しているデータといえます。
引用文献:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvma1951/61/1/61_1_5/_pdf/-char/ja
【介護施設でのアニマルセラピー】できることや内容は?
介護施設とは、自宅で介護を受けることが困難な人が入居し、食事や入浴、排泄などのお世話をしてもらいながら暮らすところといったイメージを持たれている人か多いと思います。
介護施設で行われるアニマルセラピーは、入居者が動物の世話をしたり、遊んだりして一定時間触れ合うものです。
一般的にレクリエーションやイベントの一環として行われ、ボランティアや専門の団体に依頼して外部から動物を連れてきてもらうケースがほとんどです。
- 名前を呼んだり、話しかけたりする
- 体や頭を撫でる
- 抱っこする
- ボールやおもちゃを投げて遊ぶ
- 散歩する
- 餌やおやつを与える
【アニマルセラピー】活動内容について
アニマルセラピーの詳しい活動内容については、NPO法人日本アニマルセラピー協会や公益社団法人日本動物病院協会などのホームページを参考にしてください。
NPO法人日本アニマルセラピー協会
アニマルセラピストがセラピー犬とともに、さまざまな施設を訪問するアニマルセラピー活動を行っています。
アニマルセラピストの資格取得についても説明があり、アニマルセラピーの活動実績も掲載されています。
公益社団法人日本動物病院協会
アニマルセラピーについて知りたい・支援したい方に対して、動画での説明や活動報告がされています。
【介護施設でのアニマルセラピー】まとめ
動物と触れ合うことで、情動面や精神疾患・認知症にも効果があると言われている「アニマルセラピー」について紹介しました。
動物の中でも向き不向きがあるアニマルセラピーですが、最近では、イベントやレクリエーションでアニマルセラピーを取り入れる介護施設も増えてきています。
動物たちと触れ合うことで、笑顔になったり元気になったりする人が増えると嬉しいですよね。ぜひ参考にしてみてください。