法人や個人が事業用として不動産売却をした場合、会計帳簿に計上する必要があります。はじめてならば、どのように仕訳をしたらよいのか悩みますよね。
不動産売却の仕訳方法は複雑で、抜け落ちや勘違いも多いのが現実です。正しく仕訳しないと余分に税金を支払わなければいけなくなる可能性も出てきます。
失敗しない不動産売却の仕訳方法を、はじめての方にもわかりやすく解説しますので、最後までお付き合いくださいね。
(アイキャッチ画像出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/810916?title=%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8&searchId=1692408137)
【不動産売却の仕訳方法】の基礎知識
不動産を売却した場合、土地だけを売却するのか、土地と建物を一緒に売却をするのか、個人事業主なのか法人なのかによって仕訳方法が異なります。不動産売却の仕訳の基礎知識を解説します。
- 消費税の対象は建物部分のみ
- 土地の売却分は固定資産売却損益勘定で仕訳
- 不動産売却の利益は簿価を基準にする
- 仕訳の日付けについて
消費税の対象は建物部分のみ
不動産売却の価格は税込価格で表示されますが、課税対象になっているのは建物部分のみです。土地は消費するものではないため、消費税はかかりません。
そのため不動産会社に支払う仲介手数料の計算は注意が必要です。仲介手数料を計算するときには、建物の売却価格から消費税を引いた価格を出しましょう。
土地の売却分は固定資産売却損益勘定で仕訳
土地を売却する場合、個人事業主でも法人でも、その土地が投資目的ではなく事業のために利用されていた土地であれば、固定資産売却損益勘定を使って仕訳します。
不動産売却の利益は簿価を基準にする
不動産売却の会計処理(損益計算)をおこなう時には「簿価」という指標を使って計算します。簿価とは不動産の購入価格のことです。
建物は減価償却ができるため、建物の簿価は建物が減少した分だけ引き算します。そのため、古い建物ほど簿価は下がるので、売却される際に課税される譲渡益が増えます。
仕訳の日付けについて
仕訳をおこなう時には、日付が重要な役割を果たします。その年の利益に入れるのか、翌年にするかで利益額が変わり税金額も変わってくるからです。
確定申告するために、12月の段階でその年にどれくらいの損益が発生したかを計算し、使える控除や税金の繰り延べを考えます。特に期末近くの不動産売却の場合は、よく考えて仕訳をしましょう。
不動産売却にかかわる諸費用の仕訳について
仕訳をおこなうには、費用として計上できるものがあります。不動産売却の際に計上できる費用を説明します。
- 手付金は負債勘定で仕訳
- 仲介手数料は情報提供扱い
- 固定資産税は買主と売主で分担
手付金は負債勘定で仕訳
不動産売却をおこなう時は、売買契約が成立した時に買主は売主に手付金を支払います。この手付金にはいくつか種類がありますが、手付金の仕訳は負債勘定で勘定項目は前受金となります。
仲介手数料は情報提供扱い
仲介手数料とは、不動産会社に不動産の売却を依頼して成約した時の手数料です。法律上では、情報提供料として扱われます。
そのため仲介手数料が発生した時は、支払い手数料という勘定科目で借方に課税仕入れと記載しましょう。
固定資産税は買主と売主で分担
不動産の固定資産税は、毎年1月1日時点にこの不動産を所有している人に課税されます。そのため、不動産の引き渡しの前日分までを売主が負担し、引き渡し日以降を買主が負担するという分担形式になります。
固定資産税の清算金は、法律上は売却代金として扱われます。もし、建物の売却の時には譲渡価格に固定資産税清算金を加えて損益計算をおこないます。
それでは次に、実際に簿価400万円の土地を売却した場合について、仕訳例を5パターンについて説明していきます。
【不動産売却の仕訳方法】①土地を簿価より安く売却した場合
例えば、簿価が400万円の土地を200万円で売却した時の仕訳をしてみましょう。土地の代金10%を手付金として20万円を契約時に受け取ったこととします。
仲介手数料の計算方法は、上限で売買価格が200万円超~400万円以下の場合は4%、400万円を超える場合は3%の割合で設定します。
仲介手数料を売却価格の4%として、土地の価格200万円×4%+2万円で計算すると10万円です。売却時の仕訳は以下のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
現金 | 170万円 | 土地 | 400万円 |
前受金 | 20万円 | ー | ー |
支払手数料 | 10万円 | ー | ー |
固定資産売却損 | 200万円 | ー | ー |
土地の場合、不動産売却価格200万円は非課税売上になるので、消費税は課税されません。
【不動産売却の仕訳方法】②土地を簿価より高く売却した場合
例えば、簿価が400万円の土地を600万円で売却した時の仕訳をしてみましょう。土地の代金10%を手付金として60万円を契約時に受け取ったこととします。
仲介手数料を売却価格の3%として、仲介手数料を土地の価格600万円×3%+6万円で計算すると、24万円です。売却時の仕訳は以下のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
現金 | 526万円 | 土地 | 400万円 |
前受金 | 60万円 | 固定資産売却益 | 200万円 |
支払手数料 | 24万円 | ー | ー |
土地の場合、不動産売却価格600万円は非課税売上になるので、消費税は課税されません。
【不動産売却の仕訳方法】③土地と建物を安く売却した場合
不動産の売却では、建物と一緒に土地も売るケースが多いです。仲介手数料は税抜きの建物価格に消費税がかかりますので、建物単独の税抜きの価格を出してから、仲介手数料を計算します。
例えば、簿価が500万円の土地を400万円で売却、簿価が300万円の建物を100万円で売却した時の仕訳をしてみましょう。ここでは契約時に手付金を50万円受け取ったとします。
売却金額が土地と建物500万円で計算をすると、仲介手数料は500万円×3%+6万円で21万円です。消費税は建物のみに課税されるので、建物100万円×10%の10万円が仮受消費税になります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
現金 | 429万円 | 土地 | 400万円 |
支払手数料 | 21万円 | 建物 | 100万円 |
前受金 | 50万円 | ー | ー |
固定資産売却損 | 100万円 | 土地 | 100万円 |
固定資産売却損 | 200万円 | 建物 | 200万円 |
ー | ー | 仮受消費税 | 10万円 |
【不動産売却の仕訳方法】④土地と建物を高く売却した場合
例えば、簿価が500万円の土地を600万円で売却、簿価が300万円の建物を500万円で売却した時の仕訳をしてみましょう。契約時に手付金を100万円を受け取ったとします。
売却金額が土地と建物代1,100万円で計算をすると、仲介手数料は1,100万円×3%+6万円で39万円です。消費税は建物のみに課税されるので、建物500万円×10%の50万円が仮受消費税になります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
現金 | 961万円 | 土地 | 600万円 |
支払手数料 | 39万円 | 固定資産売却益 | 100万円 |
前受金 | 100万円 | 建物 | 500万円 |
ー | ー | 固定資産売却益 | 200万円 |
ー | ー | 仮受消費税 | 50万円 |
【不動産売却の仕訳方法】⑤土地が高く建物が低く売却した場合
例えば、簿価が500万円の土地を600万円で売却、簿価が300万円の建物を100万円で売却した時を仕訳をしてみましょう。ここでは契約時に手付金を70万円受け取ったこととします。
売却価格が700万円で400万円を超えると、仲介手数料は700万円×3%+6万円で27万円です。消費税は建物部分に課税されるので、建物価格100万円×10%で10万円が仮受所得税になります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
現金 | 593万円 | 土地 | 600万円 |
支払手数料 | 27万円 | 固定資産売却益 | 100万円 |
前受金 | 70万円 | 建物 | 100万円 |
固定資産売却損 | 200万円 | 建物 | 200万円 |
ー | ー | 仮受消費税 | 10万円 |
投資用物件を売却した仕訳の注意点
投資用の物件を売却する時には、前払いで受け取っている家賃など清算すべきものがあるのか確認が必要です。また、売却日までの減価償却費を計算し計上します。その2点のついて説明します。
前払いの賃料などを清算する
賃料をもらっていたアパートなどを売却する場合は、売却時に清算するものがたくさんあります。固定資産税・都市計画税のほかに日割り計算をする項目も多数あります。
前払賃料や駐車場利用代金、BSアンテナの屋上利用料、自動販売機の土地利用料、看板広告料などです。売り主が賃料をもらいすぎている場合は、売主から買主に対して支払わなくてはいけません。
減価償却を計上
建物は年数が経つと価値が下がっていきます。そのため価値下がった分を建物の価値を費用として計上する減価償却をしなくてはいけません。簿価から価値が下がった部分を引いて損益計算をします。
投資用物件を売却する時は、譲渡損益・譲渡所得が発生すると、利用できる特例などを確認して確定申告をします。譲渡所得は分離課税を考慮して計上時期を考える必要があります。
【不動産売却の仕訳方法】個人事業主と法人との違い
法人の場合、その年に得たすべての収入金額を合算し、その金額からすべての経費を引き算して損益計算をします。税額を計算するときもすべてまとめて計算可能です。
しかし、個人の場合は事業所得や給与所得など、所得ごとに税金の計算をする必要があります。
分離課税のため、総合課税とは損益通算できないので、譲渡所得がマイナスであっても来年まで繰り越すというというような繰越制度もありません。
譲渡所得がマイナスならば、そのまま終了で他の所得に影響を及ぼして税率を減らすことができない、厳しい税制になってますので注意が必要です。
【不動産売却の仕訳方法】不安であれば専門家に相談する
不動産売却は、個人事業主か法人であるかで勘定科目が変わります。発生した所得も事業所得になるのか、譲渡所得になるのか異なるというように複雑です。
不動産売却での仕訳は、その後の税金の支払いに影響を与えます。また不動産売却では多額のお金が動くので、会計処理を間違えると税金を余分に払ってしまい、損をする可能性があるので気を付けなくてはいけません。
不動産売却の仕訳方法について不安や疑問があるなら、売却を依頼した不動産会社や税理士など専門家に相談する方法をおすすめします。
【不動産売却の仕訳方法】まとめ
正しく確定申告をするには、正しい不動産売却の仕訳方法をする必要があります。正しく仕訳をしないと利益が出ても余計な税金を支払うかもしれません。
初めての方には複雑で仕訳をするのに時間がかかりますが、ひとつずつ理解をしていけば大丈夫です。それでも心配であれば、不動産会社や税理士など専門家に相談するのも安心ですね。
不動産売却の仕訳方法について参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。